オウィディウス先生にナンパを学ぼう

詩人はモテそう

アウグスティヌスとかが生きてたローマ時代っていうのは、その後のヨーロッパが禁欲的なキリスト教に席巻されてしまった以降に比べると性的に自由だったとか、放埒だったとか言われることが多いようです。特に帝国になった最初の方(初代皇帝のアウグストゥスからティベリウス、カリグラ、クラディウス、ネロあたり)は浮気だの不倫だの殺人だのいろいろやばいことをしていて性的に乱脈だったみたいな感じで紹介されることが多いっすね。物語や映画も多い。

まあ金と地位を手に入れたひとがいろいろひどいことをするのは人類の歴史ではよく見かけますね。一般の人がどうだったのかはよくわからないけど、まあそこそこ楽しんでたんだろう、みたいなに思われている。

そういう印象がどっから来るかというと、古典文学とかにエロ話が見かけられるからですわね。特に有名なのが、初代皇帝のアウグストゥスと同時代人のオウィディウスという大詩人が書いた『恋の技法』 (Ars Amatoria、『恋愛指南』)の影響だと言われます。この本は現代人が読んでも楽しめるのでぜひ読むべきです。

当時のギリシアやローマでは、「教訓詩」ってのがあったみたいですね。「人間ちゃんと働かなくちゃだめだ」「燕が来たら種をまけ」みたいなそういうためになることを韻文の形にしたもので、まあ真面目。オウィディウス先生はそういうのも書けたんでしょうが、それを男女のいちゃつきの作法みたいなのでパロったわけです。「恋の技法」とかっていうから甘い恋愛の話かというとそうではなく、完全にナンパとセックスの教則本、いまでいうナンパ本みたいな感じですわ。女性と仲良くなりたい男性はどうしたらいいか、男性の気をひきたい女性はどうしたらいいか、あとベッドでどうするか、とかそういうのをお説教するわけです。こういうの書いたからオウィディウス先生は皇帝アウグストゥスからローマを追放されちゃったりします。文学者というのはたいへんですね。

古代ギリシアではなんか恋愛といってもプラトン先生だと男性同士のパイデラスティアの話とかになっちゃうのですが、古代ローマでこらへんの男女の「恋愛」やその技術が注目された裏には理由がある。古代ギリシアに比べ古代ローマは女性にも財産権とかあって相対的に地位が上がった。それに古代ギリシアでは結婚とかは女性の父親と旦那(候補)の間の契約だったので女性の意思は反映されなかったけど、古代ローマではいちおう女性が男性を選ぶこともできた、みたいなのがまあ女性が性的に発展したり、女性の歓心を買う技術に価値が出てきた理由だ、みたいな感じで説明されます。女性が選択することができるから男性がいろいろ努力する必要が出てくるわけですね。最近の国内の「モテ本」みたいなのもそういうことだと思う。

実際にローマの人びとがそんな自由に楽しんでたのか、というと最近出た佐藤彰一先生の『禁欲のヨーロッパ』とか読むとそんな簡単なもんじゃないですけどね。

そういうものは読んでられないからモテる方法を早く教えろ、という忙しい人のために書いておくと、中身はそこらへんのナンパ本とほとんどかわりません。

男性用だと

  • まず身なりをととのえろ。清潔さが大事だ。靴にも気をつかえ。
  • とにかく人の多いところに顔を出せ。劇場、競馬場、格闘技場、飲み会。
  • 適当にきっかけをつくって話かけて、女性の言うことに異議をとなえずそうだそうだとうなづけ。
  • 小間使いと仲良くなれ。
  • 旦那と喧嘩したりして感情が不安定なときに攻めろ。
  • 贈り物をしろ。
  • まめに手紙を書け。
  • 飲み会では歌ったり踊ったりして芸を見せろ。

とかそういう感じ。まあ人のやることは文化も時代も変わっても同じようなものですな。「無理矢理でもいいからチューしてしまえ」みたいなあぶないのもあり。

私が読むかぎり、一番大事なのはこれだ。

まずは、君のその心に確信を抱くことだ。あらゆる女はつかまえうるものだ、と。網を張ってさえいればつかまえることができるのだ。女が若者の甘いことばに誘惑されて撥ねつけるようなことがあれば、春には鳥たちが、夏には蝉がうたうことをわすれて沈黙し、猟犬が兎に背を向けて逃げ出すくらいのものだ。嫌がっているのだと君が信じているかもしれない女も、その実それを望んでいるのだ。こっそりと楽しむ愛が男にとって心をそそるものであるように、女にとってもそうなのだ。男は愛欲を隠すのが下手だが、女はもっと秘め隠した形で愛欲を抱くものだ。

まあとにかく自信が大事なようです。

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