パーソン論よくある誤解(4) パーソン論は英米生命倫理学の主流の考え方である

いや、ぜんぜん。

とにかく国内で議論されている「パーソン論」は古いんですわ。けっきょくパーソン論というのは「われわれは人パーソンを特別扱いしている」っていう事実からはじまってるわけですが、70年代から80年代にかけての論争のなかでそういう「人間」を特別扱いにするって考え方はあんまり筋が通らないってことが理解されるようになって、議論はもっと進んでいます。

「パーソン」かどうか、なんてのは程度の差だし、そんな重要じゃないだろう、ってのが主流じゃないですかね。特に英国系の議論では。米国流の「権利」を中心にした考え方ではいまだにやっぱり権利の主体は誰なの、って話をしなきゃならんわけですが、けっきょく権利なんてのは人間の決め事だからどういうふうにもその主体の範囲を決めることができる。いまだにパーソンにこだわってるのは自然権とかそういうものでなんとか議論しようとしている人だけでしょう。

そもそもたとえば「自己意識」がパーソンであるための重要な条件だ、って言われたって、なぜ自己意識が権利とか道徳的地位と関係があるのか論証しなきゃならん。それはかなり難しいしおそらく無理そう。だからもう「パーソンかどうか」っていう基本的に権利ベースの考え方は放棄されて、道徳的地位とかそういう話になってると理解してます。

自己意識やら高度な知性やらがなくなって重要な存在者がいるのははっきりしているのだから、もうパーソンについて考えんのは無駄だよね。みたいな。

たとえばThe Oxford handbook of BioethicsのBonnie Steinbock先生の”Moral Status, Moral Value, and Human Embryos”とか見ると雰囲気わかるんじゃないすかね。

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日本の生命倫理学ももっとちゃんとアップデートしましょう。こうしてパーソン論についてごちゃごちゃやってるのは、あんまりひどい議論ばっかり見かけるからいらだってやってるだけ。


パーソン論よくある誤解(4) パーソン論は英米生命倫理学の主流の考え方である」への4件のフィードバック

  1. Anonymous

    日本ではキリスト教徒(特にカトリック)がメジャーじゃないっていうのが誤解の最大の要因なんではないでしょうかね。人間を特別扱いするっていうときの「根拠」が全然まったく違う土壌で輸入学問をそのまま通行させようっていうのは無理すぎないかっていう。

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  2. Anonymous

    なるほど。トゥーリーさんとか仮想敵のひとつはフィニスさんとかローンハイマーさんとかだと思うのですけれど、日本の倫理学者の大半はフィニスなんて読まないし、読んでもなるほどとか絶対思わないなさそうだし(理性的魂をもった被造物に特権的な地位があると信じている人はあまりいなさそう)。かわりに文部科学省様が生命の教育とかわけのわからない湿った宗教を推進してくださっているので学生様は洗脳されていて、大人の間でもそういうわけのわからない宗教を信じている人がたくさんいるというのが日本の現況のように思います。ですから日本とアメリカで、同じ議論をしても受け取りかたが全然ちがうのではないか、と。敵を知り己を知ればなんとやらな。

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  3. 江口某

    そうですね。キリスト教というよりは、中絶の話がむにゃむにゃとされたまま「パーソン論がー」とやられているのが一番の問題だと思っています。

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