ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
ジョナサン・ハイト
紀伊國屋書店
売り上げランキング: 1,433

ツイッタで訳者の先生が「売れない売れない」と嘆いておられるのでamazonに紹介文書いてみた。春先には、「よい本を紹介するレビューをamazonとブログにどんどん書こう」とか妄想してたのに時間がとれない。「書評」だと思うとどうしてもかまえちゃうからねえ。shorebird先生のとか理想的だけど、ああいうのは学識に裏打ちされてできるもなのだし、かなり時間と労力もかかっている。そういうわけで今回は本を見ないで記憶だけで書いた。30分ちょっと。ははは。でもそのあといじっちゃったりしてやっぱり1時間ちょっとは使ってしまう。人生は短い。

amazonにレビュー書いてもアフィリエイト収入入らないし。あれなんとかしてほしいですよね。

大学教員にとって書評というのはけっこうむずかしくて、書いてもたいして評価されないのに読みまちがえてたり誤解してたりするとプゲラってやられちゃうし。否定的な評価すると憎まれちゃう可能性もある。翻訳もそうですね。あれは理解力が試されてる感じですごく恐い。そういうんで、amazonレビュー程度でも本の内容に触れたものは書きにくいです。

私にできるのは、せいぜいツイッタで1行コメントつけて紹介する程度。

でも書評はすごく大事なのに国内では軽視されているところがあると思うので、将来的にはいろいろやりたい。

まあしかし翻訳書というのは非常に重要なものなので、積極的に買って翻訳文化を支えたいですね。高橋洋先生は他にも重要なのを訳していて注目しています。

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ジョナサン・ハイト先生はいま世界で一番注目されている社会心理学者・道徳心理学者の一人で、国内では『しあわせ仮説』に続く書籍ということになります。

この先生が有名になったのは”The Emotional Dog and its Rational Tail” 「感情的な犬とその合理的な尻尾」 (2000年)っていう論文で、これは人間ってのは道徳判断をするときに、いろんなことをよく考えて答を出すというよりは、まずぱっと感情的に判断して、それにいろんな理由をあとづけでくっつけるようだ、って話でした。この論文のあとに道徳心理学が爆発的に流行することになります。例の「トロッコが暴走して、スイッチを押せば5人助かるけど〜」みたいな話も、とりあえず直感や感情で判断してそのあとで理屈をいろいろひねったりしているようだ、とかそういう研究とかが盛んになったり。

前著の『しあわせ仮説』では、人間てのは象さん(感情)とその乗り手(理性)の組みたいなもんで、乗り手の方は象のパワーをよく知ってうまくコントロールしないとしあわせになるのは難しい、もっとよく自分たちの心理を研究しよう、みたいな話だったわけですが、この『左と右』では政治的な運動をする上でも人間の心理をよく知っておくことは大事だ、みたいな話になります。

ここ数年ネトウヨとか保守派とか国粋主義者のような人びとが力をつけて、ネットインテリの人たちは困っているようですが、それはアメリカとかも同じようなもので、いまはオバマの民主党政権だけど保守派の共和党も強い。米国民主党に代表される政治的な立場は、貧乏人とか弱い者にもっとやさしくしよう、もっと人びとのそれぞれの価値観を尊重しましょう、みたいな立場なわけで、インテリの多くはそっちを選ぶ。まあふつう文句ないですよね。でも実際に選挙したりすると保守派が勝ってしまったりする。なぜなの? ネットインテリの人とか見てると、保守的な立場の人は馬鹿だからそうなっているのだ、みたいなことをほのめかす人もいますが、馬鹿がそんな多いというわけでもないですよね。保守派は保守派の魅力があるから多数派なわけで。保守的な人もリベラルな人も、自分は正義だと思ってる。この「自分は正義だ」っていう「正義心」がテーマです。

ハイト先生がいろいろ心理学的調査をして考えた結論は、そういうリベラル派は人の苦しみとかそれに対する「ケア」や援助、防衛とか、「自由 liberty」だとか、あとはせいぜい「公正さ fairness」ぐらいが道徳のすべてだって思いこむ傾向があるけど、実は人間が気にしている軸はもっとある。

まず「忠誠心 loyalty」。これは仲間意識とかそういうやつですね。家族は大事だ、俺たちは仲間だ、他人を助ける前にまず仲間を助けよう、裏切り者には罰を与えろ、なんで自分たちの仲間をくそみそにけなすんだ、みたいな感情です。それに「権威 authority」。ちゃんと権威にはしたがうべきで、権威を認めないとか軽視するとか、権威をおとしめるようなことを言ったりやったりする奴は許せない、みたいな感情。そして、「神聖さ sanctity」。汚れたものには触りたくない、清浄でなければならない場所や時間や行為がある、など。こういうのが神聖さとか信心深さとか、共同体を大事にするとか、社会秩序や階層をしっかりするとか、伝統を重視するとか、ご先祖様や戦没者をちゃんとうやまうとか、あるいは(宗教的な)罪にあたることをしないようにっていう意識につながってるというわけです。

保守派はリベラルが重視しない忠誠心や権威の尊重や神聖さっていう価値にうまく訴えていて、それがなかなか米国社会でリベラルな価値観が普及しない理由だ、とかって話になるわけです。リベラルな人は、保守派が馬鹿だから保守なのだとか考えるんじゃなく、ちゃんとその理由みたいなものを考えて、そのうえで政治運動しないといつまでも勝てませんよ、ということだそうです。

ハイト先生ははっきり述べてないですが、政治だけじゃなくて、たとえば生命倫理(脳死や尊厳死や中絶など)にもおそらく関係があると思います。(ただし生命倫理などに関する議論では、日本の右/左と米国のリベラル/保守がうまく対応してません。)

いろいろな実証的な調査や哲学的な考察が入っていておもしろいです。ただグループ進化の部分は生物学の専門家から非常に評判が悪いのでそのまんま信じるのはやめた方がよさそうです。

翻訳はきれいで読みやすいです。

どういう人物か見たい人は、このプレゼンテーションとかもどうぞ。
http://digitalcast.jp/v/12397/

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